2016/07/11

やさしく教育論④~「頑張ったら何かもらえますか」

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東京都渋谷区にある小学生対象のプログラミング教室スモールトレインで講師をしております福井です。第14回目はやさしく教育論④として「頑張ったら何かもらえますか」です。こちらもやさしくデジタル2016年4月号に掲載されたものが元になっています。

先生、頑張ったら何かくれるの?

「本人にやる気がなければ合格させることはできません」

みなさんもこうした言葉を耳にしたことがあるかと思います。確かに本人に勉強する気がないのに、強制的に勉強をさせても成績が伸びるわけはなく、本人にとっても苦痛ですし、教えている側もどうしたら良いかと悩む日々が続くことになります。そこでいろいろな方法を試してきました。

そのひとつが頑張ったら何かをあげるという報酬制の導入です。宿題を忘れたら怒るのではなく、宿題を毎日やった人に景品を出す。点数が悪い人を怒るのではなく、点数がいい人に景品を渡す。「良いですか、皆さん。頑張っていい点数を取ると景品が貰えるんですよ」。こうしたやり方はいろいろな塾にも導入されているので、一定の効果があると考えているのでしょう。

しかし、私が実践してみるとそうした効果には疑問があるのです。私が国語を教えていた時に宿題が終わったらシールを貼るというスタンプラリーのようなものを行っていました。宿題を忘れた人は一目瞭然。シールが少ないので一目でわかります。しかも、六年生の課題ですので、こうした課題をこなせない人は中学受験で合格できないとなるわけです。

しかし、この仕組みですがうまくいきませんでした。まずやる気がある人はシールなどなくても勉強します。そのため、シールを毎日貼るのではなく、1か月分をまとめて貼っていました。彼らにとってシールを貼ることは無駄な作業な訳です。

さて、宿題をよく忘れていた・やらなかった人はどうなったでしょうか。相変わらずやりません。シールはほとんど貼られず、怒られる人がいました。しかし、中には今までは宿題をやってこなかったのに、シールをたくさん貼る人が出てきました。

なぜそのようなことが起こったのでしょう。シールを貼ることでやる気が出たのでしょうか。そうではありません。実は答えを丸写ししていたのです。そのため、宿題で出ている解答部分はほとんど○。しかし確認テストではほとんど点が取れないのです。つまり彼らの目的は勉強ができるようになることではなく、シールを貼ることに置き換わっていたのですね。

こうしたことは他にもよくあります。この記事のタイトルにもなっていますが、宿題を出すにしても、テストをするにしても「頑張ったら何かもらえますか?」と聞く生徒がいます。これは何ももらえないなら頑張らないという意味で、勉強をするかしないかの決定は完全に外部に依存した形になっています。

さらに悪いことに「○○先生はもっといっぱいくれた」とか「いつもこの景品では嫌だ」と言う生徒もいました。小学生に限らず、もっと小さな子でもそうなのですが、子どもに言うことを聞かせるためにお菓子をあげていたら、お菓子をあげないと言うことを聞かなくなり、お菓子をあげないで怒ることで、以前より大変になったという話も聞きます。

そう考えると、結局は解決策は無く、「本人のやる気次第」としかいえないのでしょうか。それを考えるヒントとして、以前読んだ本に以下のような箇所がありました。

正しい問いは「他者をどのように動機づけるか」ではない。「どのようにすれば他者が自らを動機づける条件を生み出せるか」と問わなければならない(12頁)。

報酬によって動機づけるというのは「他者をどのように動機づけるか」が元になっているので、これではうまくいきません。「どうすれば他者が自らを動機づける条件を生み出せるか」を考える必要があるということです。これを「内発的動機づけ」と言うのですが、そのために個々の自律性が必要になります。

自律性とは自分を自身でコントロールするということですが、そのために必要なことは「選択」です。選択の機会を与えることで人は「自律的」にふるまうことができます。「自律的」というと「自由にふるまうこと」となりがちですが、そうではなく、自律性を支援するには「彼らに何が起こっているのかを理解することから始ま」り、「われわれは制限を課し、一貫した態度で結果を管理していく必要はあるが、重要なのは、子どもたちのことを理解したうえでそれらを行うこと」が重要なのです(145頁)。

言葉にすると簡単なことではありますが、実践するとなると難しいものです。しかし、プログラミング教室スモールトレインでは課題は課されますが、プログラミングの特性のためにその解答は「選択」できます。つまりプログラミング教育を通して自律性が支援できるのです。その結果、他の分野でも自律的に行動できるようにすること。それが私達が行う「内発的動機づけ」の支援だと思っています。

参考文献 デシ・フラスト著、桜井茂男監訳(1999)『人を伸ばす力』、新曜社

いかがでしょうか。 プログラミング教育を通して、皆さんが勉強に対して前向きになるきっかけを作っていく。これもプログラミング教育のひとつの意義だと考えます。興味のある方がいましたら、現在、説明会&体験会を実施中ですので、そちらに参加した際にお気軽にお尋ねください。

*このコラムは、コンピュータリブ社の発行する「やさしくデジタル4月号」に掲載されている内容を許可をいただいて加筆して転載しております。

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