2016/07/21

やさしく教育論⑤~過去の歴史は現在とつながっている

歴史

東京都渋谷区にある小学生対象のプログラミング教室スモールトレインで講師をしております福井です。第20回目はやさしく教育論⑤として「過去の歴史は現在とつながっている」です。こちらもやさしくデジタル2015年12月号に掲載されたものが元になっています。

タイトルについてですが、とても当たり前のことですよね。過去の歴史があるからこそ今があるのは当然です。しかし、これが社会の勉強になると今とのつながりよりも「歴史」の勉強になってしまい、今とは切り離されたものになってしまいます。本来であれば現在から過去にさかのぼる形で歴史を学習していった方が面白いのですが、それはなかなか難しく、縄文時代からスタートするのが通常です。

社会を教えてみると男子は歴史好きが多く、特に戦国時代の戦国武将が好きという生徒が多くいます。しかし、それは歴史全体が好きではなく、戦国時代が好きなので社会そのものの点数は決して高くはありません。また、現代と戦国時代のつながりを意識して学習しているわけではないので、好き嫌いの世界で終わってしまいます。女子は地理の方が好きな生徒が多く、「戦国大名が好き」という男子を理解できない感じでした。

中学入試でも現在と過去の歴史のつながりを意識した問題が多く出題されるわけではなく、単に知識を問うような問題もあるのですが、麻布中学などの上位校は違います。単に知識を問うのではなく、それを現在の問題として捉えなおして答えなければならない問題が出題されます。以下の問題はまさんにそうです。

2015年度 麻布中学社会
次の文章をよく読んで、次の問いに答えなさい。

あなたの家の今朝の食卓を思い出してみてください。茶碗に盛られた白いご飯。そのとなりには熱々のお味噌汁。あるいは、パンの横に、サラダやスープや目玉焼きが並んでいるかもしれません。栄養バランスのとれたおいしいおかずが並んでいることでしょう。しかし、今日これからあなたに考えてほしいのは、ご飯やおかずのことではありません。それらをのせている「器」についてです。
国によって食卓のマナーが異なるように、器の扱い方も国によって異なっていて、たとえば、日本ではご飯を食べる茶碗はそれぞれ自分専用の器を使う家庭が多いようです。実は、これは世界的にも珍しい習慣です。なかには夫婦で使う夫婦茶碗というものもあり、結婚のお祝いとして送られることがあります。
(中略)

話を器にもどしましょう。大昔、泉や川などの水場で水を手ですくって飲んでいた人が、自分の手に代わるものとして器を考えついたということが器の始まりだといえるでしょう。器は人の手の延長として始まったのです。運び、蓄えるために、器は大いに役立ってきたはずです。器という道具を手に入れることで、人びとの生活は大きく変わりました。人びとは、より使いやすい器を工夫して作り出してきたのです。しかし、器の歴史を調べてみると、人間と器の関係はそれだけではないことがわかります。つまり、器はたんに生活を便利にする道具としてだけではなく、それとは異なる意味や役割をもつことによって、私たちの生活や社会のあり方にさまざまな影響をおよぼしてきたのです

問1 下線部アについて。夫婦茶碗とは大きさの違う茶碗をひと組にしたものです。しかし最近では、このような茶碗を好まない人も増えているようです。それはなぜでしょうか、理由を答えなさい。

問2 下線部イについて。本文をよく読んで、器がもつようになった意味や役割を一つあげ、どのような影響を生活や社会に与えたか説明しなさい。

この問題は茶碗というものを通して歴史を見ていくという大変面白い問題です。問1は歴史の問題というよりも公民の問題なのですが、茶碗を通して今の私たちの生活で起こっている変化を問うています。なぜ夫婦茶碗を好まない人が増えているのでしょうか。ポイントは「大きさが違う」という点です。

問2ですが、これは器の役割の変化を問うているものです。単にものを入れる道具ではなく、それが社会的な意味を持ってきてしまう。千利休などが思いついた人はもう答えのすぐ近くにいます。

かつてイタリアの歴史家クローチェは「すべての歴史は現代史である」と言いました。これはすべての歴史が現在の価値観で分析されるという批判的な意味が含まれるのですが、当時のできごとが今とどうつながっているのかという視点そのものは重要です。ただそこに当時はそれがどのような意味をもったのかという視点だけでは忘れないでおきたいですね。

いかがでしょうか。現在、プログラミング教室スモールトレインでは、説明会&体験会を実施中です。次回の説明会&体験会は7月23日(土)です。気軽にご参加ください。

*このコラムは、コンピュータリブ社の発行する「やさしくデジタル12月号」に掲載されている内容を許可をいただいて加筆して転載しております。

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